コツメカワウソって
どんな生きもの?
- 和名:コツメカワウソ
- 英名:Asian small clawed otter
- 学名:Aonyx cinerea
食肉目イタチ科カワウソ亜科に属する、カワウソの仲間では最も小さい種類で、東南アジアの小河川や水田、灌漑(かんがい)用水路、河口などに暮らしています。爪が小さいことからその名前が付きました。近年では生息数が減少しており、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでは「危急種(VU)」に指定されています。
カワウソの仲間(カワウソ亜科)は13種で、手足の爪の有無、尾や鼻の形、特に鼻の上方にある板状の皮膚(鼻鏡(びきょう))の形で識別できます。極地やオーストラリア、マダガスカルを除く、北から南の広い地域に分布していますが、ほとんどの種において絶滅の危険性が高くなっています。
種名 | 学名 | 種の保存状況(IUCN) | |
---|---|---|---|
1 | ラッコ |
Enhydra lutris |
危機(EN) |
2 | ツメナシカワウソ |
Aonyx capensis |
準絶滅危惧(NT) |
3 | コンゴツメナシカワウソ |
Aonyx congicus |
準絶滅危惧(NT) |
4 | コツメカワウソ |
Aonyx cinerea |
危急(VU) |
5 | カナダカワウソ |
Lontra canadensis |
低懸念(LC) |
6 | (ミナミ)ウミカワウソ |
Lontra felina |
危機(EN) |
7 | オナガカワウソ |
Lontra longicaudis |
準絶滅危惧(NT) |
8 | チリカワウソ |
Lontra provocax |
危機(EN) |
9 | ユーラシアカワウソ |
Lutra lutra |
準絶滅危惧(NT) |
10 | スマトラカワウソ |
Lutra sumatrana |
危機(EN) |
11 | ノドブチカワウソ |
Hydrictis maculicollis |
準絶滅危惧(NT) |
12 | ビロードカワウソ |
Lutrogale perspicillata |
危急(VU) |
13 | オオカワウソ |
Pteronura brasiliensis |
危機(EN) |
コツメカワウソの体
コツメカワウソは水辺での暮らしに適応した体のつくりになっています。
コツメカワウソの暮らし
くらし
・夜行性あるいは夕方、明け方に行動します。
・家族を中心とした大きな群れで生活し、社会性が高い動物です。
餌
野生下では甲殻類や貝、カエル、魚などを餌とし、1日に体重の10%程を食べるとされています。
海遊館ではニジマスやワカサギ、カワエビなどの他、キャットフードを与えています。
糞
肛門近くにある「臭腺」から出る分泌液が含まれていて、強いにおいを放ちます。
カワウソは自分の巣の周りなどに糞をなすりつける行動をとりますが、コツメカワウソは他のカワウソの排泄場所に糞をなすりつけることがあるといわれています。
繁殖
・繁殖は1年中みられ、年に2回出産することもあります。一度に1~7頭出産します。
・繁殖年齢は飼育下では雌は1~10歳、雄では2歳からで、高齢個体では当館「ニッキ」の20歳という記録があります。
・子育ては父親と母親がつがいで行い、先に生まれたこどもは年下のこどもの世話をします。
鳴き声
非常に多様で、これまでに12種類以上の声が認識されています。
コツメカワウソの健康管理
寿命
飼育下での平均寿命は10歳前後ですが、当館「ニッキ」は23歳の記録を持ちます。
病気など
飼育下でよくみられる病気は腎臓に関するものです。その他に呼吸器、消化器の病気や歯に関わる疾病、闘争によるケガなどもみられます。
予防
海遊館では年に1回の定期健康診断を実施し、血液、レントゲン検査や歯石の除去などを実施しています。定期健康診断は麻酔をかけて行います。
ハズバンダリートレーニング
麻酔をかけて検査するだけではなく、毎日行う体温測定や採血、超音波(エコー)検査、レントゲン検査の他、点滴などはカワウソも人も安全に検査ができるように日々トレーニングを行っています。
繁殖研究
国内の水族館・動物園では、コツメカワウソの血統管理を行い、先々は人工繁殖を目指しています。しかし、コツメカワウソの性周期などの繁殖生理はまだよくわかっていないため、海遊館では定期的に糞や血液中のホルモン測定を行い、調べています。
エンリッチメント
動物が本来持つ行動を引き出し、福祉の向上や健康改善に役立てるため、さまざまな「環境エンリッチメント」を実施しています。フィーダーを使った採食エンリッチメントや設置物などによる空間エンリッチメント、さまざまなトレーニングを含む社会的エンリッチメントなど、カワウソが飽きないよう試行しています。
コツメカワウソが抱える問題
IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでは、生息域が減少していることから個体総数も減少傾向にあると評価されています。近年、日本をはじめとするペットブームの高まりにより、コツメカワウソもペットとして注目されました。しかし、その裏では密輸がさかんとなり、野生下のコツメカワウソの減少が加速する一因となっています。密輸される個体は生まれて間もない幼獣が多く、杜撰な環境で持ち込まれるため、命を落としてしまうことも少なくありません。税関で密輸が発覚し、密輸元の国に返すことができない場合は水族館や動物園が引き受けるケースがあり、海遊館でも税関で保護されたコツメカワウソを飼育しています。
コツメカワウソを守るため、2019年には「絶滅するおそれのある野生生物を保護する国際条約(ワシントン条約=CITES)」により商業的な取引は禁止となりました。
海遊館は2018~2019年にタイに赴き、動物園や水族館の方にタイのコツメカワウソの近況を伺いました。生息地域であることからも現地では身近な生き物という認識だったのですが、現在ではコツメカワウソがいるのはほんの一部の地域で、カワウソは動物園でしか見たことがないという人が多く、驚きました。
かつて日本にいた「ニホンカワウソ」は生息地の減少や人間との関わりにより絶滅しました。
コツメカワウソも同じ道をたどってしまわないよう、飼育展示や研究を通してコツメカワウソの魅力、命の大切さを伝えるとともに保全に協力できればと考えています。